(趣味でボタン変えた結果、デザインとして分かり辛くて申し訳ないです。。)
Machine-Learning-Assisted Construction of Appropriate Rotating Frame
[arXiv]
「機械学習で理論解析手法のフレームワークを構築する」という事がしたくて、摂動論や変数の削減などを行えるようにするための"適切なフレーム"の探索を機械学習でやらせる手法の提案を行った。実際に周期駆動系にそれを適用すると、ちゃんとFloquet-Magnus展開で構築するような適切なrotating frameを導出できる事を実演した。
[着想]
元々森さんや蘆田さんの論文(arXiv:2107.12587(PRL:128.050604), arXiv:201003583(PRL:126.153603))を読んでいて、「適切なフレーム」を見つけるという事に興味を持っていた。以前に中央大学でセミナーをした際に、「スケールの分離」に触れながら開放系のMarkov近似等について話すという事をしたのだが、スライドを作っている時に、「スケールの分離を見つける事と適切なフレームを見つける事は結びついてるよなぁ」、「蘆田さんのAD Frameの話は、結局今まで注目されてなかったスケールの分離を見つけてそれを適切なフレームに落とし込んだって話なんだよな〜」などと考えていた。さらにその時たまたま気分転換に「機械学習で遊んでみる」という事をやっていたので、「機械学習でスケールの分離もしくはそれに付随する適切なフレームの構築を見つけさせたら、新しい理論の話を無限に作れるのでは?」という怪電波が脳内に降ってきて、やってみる事にした。
[やった事]
基本的にはフレームの最適化問題を解くという話に帰着する。手法としては、そのフレームが持っていて欲しい性質(フレーム上で相互作用を小さくできる, なるべく細い帯行列の形にする、有効ハミルトニアンの時間依存性を小さくするなど)を満たすように、損失関数を設定し、それを軸に学習を行えば、望みの性質を持ったフレーム(ユニタリ変換や射影)が手に入るというもの。コレだけだと、その模型特有の数値的なフレームが手に入っただけなので、なるべく小さい系でパラメータ依存性込みで数値的に導く事で、それを物理学者がオペレータの形に直せれば、一般的なフレームの構築方法がわかるのではないか?という提案である。
「人間が知らないスケールの分離を見つけてそれに付随する適切なフレームを見つける」のが最終的な目標なのだが、とりあえず、既に人間が知っているスケール分離のある系のハミルトニアンとフレームが持っていて欲しい性質の情報を与えて、適切なフレームを機械学習によって"導出"できるかを確認した。具体的な系として2-spinの周期駆動系を考え、そのダイナミクスの性質を考える上で有用な適切なフレーム(Appropriate Rotating Frame)が導出できる事を確かめた。
今回の場合は、持っていて欲しい性質として、「フレーム上の有効ハミルトニアンの時間依存性が小さい」と「ちゃんと時間周期性を持っている」を課して求めたのだが、実はこれ自体では、適切なRotating Frameではなく厳密なFloquetのRotating Frameを導いてしまうはずである。(厳密なFloquetのRotatingFrameは使いづらく、摂動かつ近似的に構成したRotatingFrameの方がより適切に系の様々な物性を記述する。)
しかしここでニューラルネットワークを用いてRotating Frameを計算させるという事をすると、ニューラルネットワークの表現能力の限界から、摂動的に導出できる(or簡単な形で書ける)Rotating Frameを見つけてくるようになる。一方厳密なFloquetのrotating frameは厳密には無限次元が必要なので、そっちを見つけてくる可能性をNNが(その表現能力の限界から)排除してくれるのである。また結局フレームの摂動的もしくは簡単な構成方法の方が人間には使いやすいので、その方が嬉しいわけである。
また今回はハミルトニアンの時系列データを与えるために回帰型ニューラルネットを用いているわけなのだが、よくあるツッコミとして、「フーリエ成分で解析すれば普通のNNでより簡単に解析できるのでは?」(つまり時間周期生の条件をちゃんと使えばもう少し問題が簡単になる)というのがあると思う。今回の問題に関してはその通りなのだが、僕自身の興味として、「最終的にlatticeの系とか開放系での問題を解きたい」というものがあったので、一般の時間発展に対して使えるRNNを使った。また時系列データを時間方向じゃなくでlatticeのサイト方向にとれば、lattice系の解析も出来るので、将来の応用が効くのはRNNかなと思っている。
Dissipation and geometry in nonlinear quantum transports of multiband electronic systems
[arXiv]
散逸の効果をきちんと調べてみると、散逸由来での幾何学項が存在して、そのうち1つは時間反転対称性の下での非相反伝導の幾何学的起源ですよ、という論文。後半では、ワイル点付近における非線形ホール伝導の特異な化学ポテンシャル依存性を持ち、type-1,type-2で振る舞いが大きく異なることも示している。(これはトポロジカル物質におけるワイル点およびそのタイプの同定に使える。)
[背景]
現在非線形応答の理論研究は、半古典Boltzmann方程式による解析やreduced density matrix(1粒子の基底の直積の形に縮約した密度行列)での解析が主である。
これらの解析の利点としては、band-indexによる表記が出来るので、応答の物理的解釈(「下のバンドの電子が光で励起されて上のバンドに叩き上げられ、位相を獲得し~」といったもの)がしやすい事と解析のしやすさが挙げられるだろう。しかし一方で、photo-voltaic effect(光起電力効果)といったDCのoutputの非線形応答においては、散逸の効果が重要になってくるが、それらを考慮する事が難しい、という欠点がある。
[やった事]
そこで、Green関数法から出発し、band-indexの形に直して、無理矢理複素積分を実行すると、「フェルミ分布関数の変数を複素数に取り直すことで、より詳細に散逸の効果が取り入れられる事を示し、それに由来して、新たな幾何学項が生まれる事を示した」。また時間反転対称性下での非相反縦伝導の幾何学起源を解明したり、Weyl semimetalにおける非線形ホール伝導の特異な化学ポテンシャル依存性を明らかにした。(type-1だとWeyl点付近でμ-independentな振る舞いをし、type-2だとWeyl点付近でlog発散的な振る舞い(散逸の効果によりピークの形になる)を見せる事が分かった。)特にType-2だと大きな非線形ホール伝導が出やすい事も分かった。
Effects of renormalization and non-Hermiticity on nonlinear responses in strongly correlated electron systems
[arXiv, PRB:103.195133(2021)]
ワイル近藤半金属Ce3Bi4Pd3において相互作用の小さい(類似構造の)ワイル半金属の約1000倍の非線形ホール効果が見つかったという実験結果が上がっていたので、非線形応答に対する電子相関効果を解析してみよう、というモチベーションの元、f電子系物質で重要になってくるであろう、「(有効質量の)繰り込みの効果」と「軌道ごとに散逸の強さが異なる効果(非エルミート効果)」を解析してみた、という話。特に繰り込みの効果によって非線形応答はものすごく増強されることがわかった。
[背景]
近年固体のバルクにおける非線形応答の研究が盛んに行われている。特に注目される現象としては、高次高調波発生・光起電力効果・非相反伝導などがあげられるだろう。
周波数ωの光(レーザー)を当て、nωの応答を取り出す高次高調波発生は、バルクの空間反転対称性の破れ等対称性の同定に用いることが出来(例えば, Nat. Phys. 2, 605 (2006) , Nat. Phys. 12, 32 (2016)など)、また発生した高周波の光を用いて、さらに物質の超高速ダイナミクスの測定に応用することが出来る(例えば Nat. Comm. 11.2748(2020))。
周波数ωの光(レーザー)を当て、DCの応答を取り出す光起電力効果は、光検知器や高周波整流素子への応用が期待され[Sci. Adv. 6, eaay2497 (2020)]、盛んに研究が行われている。(余談だが、既存のpn接合系のダイオードを用いた整流素子では、高周波で応答が鈍る性質があり、例えば自動運転等に関して高速通信が欲しい場合、高周波整流素子が必要となる。)
非線形応答に関する大きな問題として、一般に線形応答に比べて非常に小さく(より高次の応答になればなるほど、eEa ~10^{-13}[eV] のファクターが掛かるため。)、故にデバイスとして用いるためには、まだまだ応答性が足りていないのが現状である。
一方、近年強相関電子系において、比較的大きな非線形応答が実験的に見つかっている。(例えば、Nature:405,929-932(2020), PNAS:118 (8) e2013386118(2021) )一方で理論的解析は、相互作用の無い系に留まっており、非線形応答への強相関効果はほとんど理解されていなかった。
[やった事]
ある程度generalな事をやりたくて、そのためには手で扱える範囲の相互作用の効果を考えたかったので、繰り込みの効果と散逸の構造(非エルミート効果)を考えた。実際に巨大な非線形応答が見えているのは、大体d(,f)電子系であり、繰り込みと軌道により異なる準粒子の寿命を持つため、上記2つの効果が重要になることが考えられる。
解析のために、reatarded,advancedのGreen関数で表せるような形で非線形応答を導出し、それを用いて上記を解析した。またconventionalな手法として、密度演算子+緩和時間近似を用いる手法があるが、その結果との比較を行った結果、緩和時間近似の適用範囲と、どのくらい結果がズレうるのかを示した
[結果]
例えば軌道等について等方的に繰り込みの効果があるとすると(m_eff=m_0/Z, 1/Z >1)、w/Zについての非線形応答は(1/Z)^n倍に増強される事が分かった。例えばCe3Bi4Pd3では1/Z~10^3程度にものぼるので、強相関電子系において、高次の非線形応答は非常に強く増強されることが分かる。
また散逸の構造(非エルミート効果)について、軌道によって準粒子の寿命が異なる場合、そのGreen関数の固有状態は、(非エルミート効果により)お互いに非直交になり、その非直交性に由来した増強を受けうることを示した。また例外点等が出るような場合においては、例外点の間に出現する虚数ギャップに由来して(非線形応答の中には、1/Δ^2に比例する項があるため)、非線形応答の符号が変化することも示した。
緩和時間近似の正当性については、DC limitと散逸をほとんど感じない高周波極限(すなわちω<<1/τ もしくは ω>>1/τ)で正しく、それ以外では、特に正当性が無い事を示した。
Effects of strong correlations on the nonlinear response in Weyl-Kondo semimetals
[arXiv,PRB:104.085151(2021)]
僕の1つ前の主著から派生して、現実の物質でも電子相関の効果をDMFT/NRGを用いて確かめてみよう、という論文。温度を下げていくと有効質量が繰り込まれていくので、非線形応答が増大していく様がよく分かる。(実際にそういう実験結果もある) 個人的に非エルミートの効果も割と効くんじゃないかという期待はあったのだが当然ながら低温では自己エネルギーの虚部は小さく効かないので、繰り込みの効果に埋もれてしまうという結果でそこは残念。
裏話もすると、実は僕の主著とこの論文は元々1つの論文にまとめて出す予定だった。その方がまとまりはあったと思うが、ものすごい長い論文になってしまっていたので、これで良かったのだろう。
Equivalence of Effective Non-Hermitian Hamiltonians in the Context of Open Quantum Systems and Strongly Correlated Electron Systems
[arXiv,PRL:124.196401(2020)
強相関電子系を開放系としてみなした時の量子マスター方程式を導出し、強相関電子系と開放量子系での非エルミート有効ハミルトニアンの対応関係を確かめた、という論文。また強相関電子系(の強相関領域)において、非マルコフ的なダイナミクスが本質になる事も示した。
[背景]
2019年のShen&FuとKozii&Fuの仕事を皮切りに、非エルミートな物理が注目を集めている。
conventionalには、フォトニック結晶等でMaxwell方程式をshrodinger方程式っぽく書いた際にgain,lossの効果から、方程式を記述する行列(“Hamiltonian”)は非エルミートになる。この時、固有状態は、エルミートの場合と異なり、非直交になる。例外点上では、その効果が最も顕著になり、固有値だけでなく固有状態も縮退する(Hamiltonianのrankが落ちる)。それに対応して、フォトニック結晶においては、光の非相反現象が起きる。(例えば、入射方向によって異なる光のモード選択が起きる。[Nature: 537,76-79(2016)])
一方で、2019年以降に始まった動きは、主に、量子多体系における波数空間上における例外点に関連する物理の探索である。舞台として、冷却原子を念頭に置いた開放量子系と強相関電子系があげられる。
開放量子系においては、Lossが起こらなかった結果だけを集めた(ポストセレクションをした)場合の時間発展は、測定の反作用により非エルミートハミルトニアンで記述される。一方で、強相関電子系においては1粒子のGreen関数は、freeなハミルトニアンと自己エネルギーを足した"有効非エルミートハミルトニアン"で記述される。実際に、1粒子Green関数を用いて、強相関電子系の種々の物理量をよく計算することが出来る。この意味で、強相関電子系の物理は、"有効非エルミートハミルトニアン"で記述される。(ここで、行列とハミルトニアンという言葉を区別して用いている事を強調しておく。例えば開放量子系において、ポストセレクションをしなくてもそのダイナミクスは非エルミート"行列"で記述できるが、非エルミート"ハミルトニアン"では記述できない。)
それぞれの文脈における非エルミートハミルトニアンの導出の仕方・条件は異なっており、両者の対応は未知のまま、互いの研究が独立に進められていた。
[やった事]
両者の対応と、なぜ条件が異なるのかが知りたかった。ので、まず同じ模型(Hubbard模型)から出発し、それを開放量子系・強相関電子系として扱い、それぞれの文脈での非エルミート有効を導出してみる、という戦略を取った。研究する過程で、開放系における非マルコフ性についても気になったのでそれについても解析した。
[結果]
両者が対応することを示した。またGreen関数のダイナミクスを表す基底(密度演算子における粒子数についての非対角項)においては、「Gain,Lossが効かない」基底なので測定の反作用を必要とする事なく、非エルミート有効ハミルトニアンを導出することが出来ることを示した。ついでとして、開放系における射影演算子を用いた摂動展開のNakajima-Zwanzig方程式と、Green関数におけるダイアグラムの摂動展開の対応も示した。また例えばHubbard模型に関して言えば、例えばMott絶縁体になっている系においては、non-Markovなダイナミクスが本質的であることも示した。
Relationship between exceptional points and the Kondo effect in f-electron materials
[arXiv,PRB:101.085122(2020)
強相関電子系を開放系としてみなした時の量子マスター方程式を導出し、強相関電子系と開放量子系での非エルミート有効ハミルトニアンの対応関係を確かめた、という論文。また強相関電子系(の強相関領域)において、非マルコフ的なダイナミクスが本質になる事も示した。
[背景]
2019年のShen&FuとKozii&Fuの仕事を皮切りに、非エルミートな物理が注目を集めている。
conventionalには、フォトニック結晶等でMaxwell方程式をshrodinger方程式っぽく書いた際にgain,lossの効果から、方程式を記述する行列(“Hamiltonian”)は非エルミートになる。この時、固有状態は、エルミートの場合と異なり、非直交になる。例外点上では、その効果が最も顕著になり、固有値だけでなく固有状態も縮退する(Hamiltonianのrankが落ちる)。それに対応して、フォトニック結晶においては、光の非相反現象が起きる。(例えば、入射方向によって異なる光のモード選択が起きる。[Nature: 537,76-79(2016)])
一方で、2019年以降に始まった動きは、主に、量子多体系における波数空間上における例外点に関連する物理の探索である。舞台として、冷却原子を念頭に置いた開放量子系と強相関電子系があげられる。
開放量子系においては、Lossが起こらなかった結果だけを集めた(ポストセレクションをした)場合の時間発展は、測定の反作用により非エルミートハミルトニアンで記述される。一方で、強相関電子系においては1粒子のGreen関数は、freeなハミルトニアンと自己エネルギーを足した"有効非エルミートハミルトニアン"で記述される。実際に、1粒子Green関数を用いて、強相関電子系の種々の物理量をよく計算することが出来る。この意味で、強相関電子系の物理は、"有効非エルミートハミルトニアン"で記述される。(ここで、行列とハミルトニアンという言葉を区別して用いている事を強調しておく。例えば開放量子系において、ポストセレクションをしなくてもそのダイナミクスは非エルミート"行列"で記述できるが、非エルミート"ハミルトニアン"では記述できない。)
それぞれの文脈における非エルミートハミルトニアンの導出の仕方・条件は異なっており、両者の対応は未知のまま、互いの研究が独立に進められていた。
[やった事]
両者の対応と、なぜ条件が異なるのかが知りたかった。ので、まず同じ模型(Hubbard模型)から出発し、それを開放量子系・強相関電子系として扱い、それぞれの文脈での非エルミート有効を導出してみる、という戦略を取った。研究する過程で、開放系における非マルコフ性についても気になったのでそれについても解析した。
[結果]
両者が対応することを示した。またGreen関数のダイナミクスを表す基底(密度演算子における粒子数についての非対角項)においては、「Gain,Lossが効かない」基底なので測定の反作用を必要とする事なく、非エルミート有効ハミルトニアンを導出することが出来ることを示した。ついでとして、開放系における射影演算子を用いた摂動展開のNakajima-Zwanzig方程式と、Green関数におけるダイアグラムの摂動展開の対応も示した。また例えばHubbard模型に関して言えば、例えばMott絶縁体になっている系においては、non-Markovなダイナミクスが本質的であることも示した。